お茶を入れて　おせんべ食べた
お茶にはやっぱり　おせんべだね
今日のおせんべは海苔が巻いてあるかたいやつ
最初に海苔だけとれちゃって
ちょっとがっかり

最近すきなのは
「ばかうけ　カレー味」
おいしいよ
　
おせんべ食べてるときに　電話が鳴った
あの人からだったので　あわてて出た
「もしもし」が「もひもひー」になっちゃって
笑われて恥ずかしかったけど
久しぶりに聞く声に　やっぱりときめいた
この声　あの人の声　そっけないあの人の声
心配そうに「元気？」って
元気じゃなかったけど　元気になった
だから　「うん、元気。」って答えた
　
用事なんてなかったその電話は
すぐに切れたけど
用事がないのにかけてきてくれたその電話は
すごくうれしかったんだ
　
さてさて　おこたでおせんべの続きを
　
もう海苔がついてないのに
さっきよりもおいしく感じました
お茶をもう一杯飲もうっと

今月のトップ詩はこれまでの傾向から見て取り上げる作品としてはやや変わりダネの作品。うりさんの『おせんべ』。

詩に趣向が凝らされているとか全然なくって、本当に普通にとある日の日常をそのまま描いたような、日記っぽいと言えば確かにそうかもしれない、そんな作品。その中でこの作品の光った箇所は3連目の

> おせんべ食べてるときに　電話が鳴った
> あの人からだったので　あわてて出た
> 「もしもし」が「もひもひー」になっちゃって
> 笑われて恥ずかしかったけど

と5連目の

> 用事なんてなかったその電話は
> すぐに切れたけど
> 用事がないのにかけてきてくれたその電話は
> すごくうれしかったんだ

だと思うのよ。

すごく日常的で素朴なシチュエーション。ただ単に思い返しただけでは「そういうこともあった」ですまされそうな、そんな瞬間の中にもしっかりと主人公が「どう思ったか」が根付いてる。それが見過ごされずに描かれている。とても簡単なこと、を人は容易く忘れてしまう。そんな、ふと「気づく」瞬間がここにはあるの。

それぞれ“恥ずかしかった”、“すごくうれしかった”の一言で感情の表現が片付けられているのがもったいないな、とは思うんですが、日常という舞台にも（たとえそれがささやかでも）、色々な感情を引き出す様々な出来事は起こってる。当たり前のような、そんな毎日を再発見した一編です。