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つみうみ 投稿者:いとう さん 投稿日:2002/06/06(Thu) 23:35 No.17   <HOME>


野村さんの奥さんにはきちんと名前があるが「野村さんの奥さん」と呼ばれても野村さんの奥さんはあまり気にしない
野村さんの奥さんは決して「若奥さん」なんて呼ばれないことを知っているがそれは若くないからではなくふさわしくないと考えているからだ

というのは嘘
野村さんの奥さんはそんな小難しいことを考えないのを私は知っている






という言葉には罪が宿る
場合がある
宿命としてある

嘘にではなく
嘘という言葉に





裸エプロンの効果について考える
効果の対象と
効果の範囲について
それから
野村さんの奥さんの裸エプロンの効果について考える
裸エプロンの効果と野村さんの奥さんの裸エプロンの効果が違うことについて考える
効果の対象と
効果の範囲について
限定されることの宿命について
考える
ことの罪について考える





名付けるにはまず知らなければならない
知るためにはまず名付けなければならない

これは矛盾ではない
もちろん不純でなどあり得ない





野村さんの奥さん
の背が低いのを知っている野村さんの奥さん
がショートカットなのを知っている野村さんの奥さん
にはジーンズがよく似合うのを知っている野村さんの奥さん
はローファーを三足持っているのを知っている野村さんの奥さん
の得意料理は肉じゃがでシャンプーにLuxを使っているのを知っている野村さんの奥さん
はよく笑うことを知っているその笑顔がとてもかわいいことも知っている野村さんの奥さん
が時々見せる憂いのある表情に野村さんの奥さん
が何の憂いも込めていないことを知っている野村さんの奥さん
が小難しいことを考えないことを知っている野村さんの奥さん
のブラジャーのサイズを知っている野村さんの奥さん
の裸エプロンを知っている野村さんの奥さん
の性感帯を知っている野村さんの奥さん
の陰毛が薄いことを知っている野村さんの奥さん
が濡れやすいことを知っている野村さんの奥さん
がじつは貪欲であることを知っている野村さんの奥さん
が野村さんの奥さん
であることを知っている野村さんの奥さん
にはきちんと名前があることを知っている野村さんの奥さん
のその名前も知っているが野村さんの奥さん
を野村さんの奥さん
と私は名付ける






名付ける
という行為には罪が伴う
場合がある

我々は罪の海原で戯れている
という比喩

あるいは野村さんの奥さんでいっぱいの海
というパロディ





野村さんの奥さんの波が押し寄せる
野村さんの奥さんはごろごろと浜辺に打ち上げられ
たくさんの野村さんの奥さんがたそがれに染まっている

海はすべて野村さんの奥さんで埋まっていて
野村さんの奥さんのかすかな吐息が波を作る
そのように野村さんの奥さんは
打ち上げられるのを待っている

私はその海を
罪と名付ける



Re: つみうみ Aya-Maidz. - 2002/06/06(Thu) 23:36 No.18  

一応毎月第一月曜日に更新しようという目標があるんだけど、今回はちょっと遅れて。とは言えさり気なく前回更新からほぼちょうど一ヶ月なんでそういう意味ではちょうど言いはずなんだけど。
ともかく。
今回取り上げるのも前回同様For youに投稿された作品の中からいとうさん作の『つみうみ』。それにしてもオンラインって時流の流れが早いよねぇ。F.y.の過去ログで確認してみたところまだ投稿されて3週間しか経ってないんだよ?などと。

んじゃさっそく。
この作品、“名付ける”という行為に対する考察とその罪っていう結構難しいテーマを取り上げているなぁとは思ったんだけど、それよりも“野村さんの奥さん”を引き合いに出して、

> 詩中の重要なファクターに複数の属性(意味)を持たせて、
> 入れ子のように、組み合わせによって様々な形が浮き出るような
> 構成にしたのはある意味、名付けられることを回避しようとする
> 試みでもあります。

とレスでコメントしているので結果的にそうなったのか狙ってそう書いたのかはともかく(というか7は明らかに狙った書き方だと思うんだけど)、その難しいテーマをコミカルに描いたなぁって。それがとてもインパクトに残った。

詩という文学なり文化に伴う世界は誠に不可思議な世界だと思う。ここでいう詩という分類においての中にあらゆる例外を含めないとするならば、「詩を書く人」は通常そのまま「詩を読む人」とイコールで繋がり、実情を確かめる術が(少なくとも私には)ないので不明瞭ではあるものの、もしかすると「詩を書く人」よりも「詩を読む人」の方が少ないであろうという、かなり奇妙な構図を抱えた世界。

それは逆に言うと、詩に触れるということが多くの人にとってそのまま実体験として訪れるファースト・インパクトとなりうるということでもある。と同時に「詩とは何ぞや?」という人々に対して一篇の詩が投げかけるエネルギーというのは実は意外と大きいとも言える。ような気もする。時に詩への偏見を打ち崩すほどのものであったり、時にその偏見をより強固なものにしたりなどと。
少なくとも何らかの小説を読んだ読後感がその読者の小説全般に対する既成概念を変えるほどの影響力は持ちえない。普通。

それを前提に、この『つみうみ』が備わったコミカルさはそのファースト・インパクトを引き起こしうるだけの大きなエネルギーを抱えている。
詩の世界は自己表現の場としてのオンラインの普及やJ-POPをはじめとするミュージックシーンの廉価商品化などの要因を受けつつ、間違いなく拡大しているのも事実で、同時にファースト・インパクト直前の「詩を読む人」の拡大も引き起こしているのも事実と言える。はず。なぜなら自己を表現するにはその場は必要となり、自己を表現する手段に詩(やポエム)を選択した以上、その場は詩を投稿する場となり、時にその場は不可抗力に他の筆者の作品が否応なく目に入る場合もあるからで。

難しいことを難しく書くのは誰にでもできる。ものを書き表すということが主眼となる場合、本当に大切なのは難しいことを分かりやすく、あるいは面白く書くことだ。と個人的に考えてる。考えてるだけになることも多いけど。

そういった点で『つみうみ』の持つエネルギーにすごく感銘を受けたわけ。深いテーマだけど、最後まで読み進めることができるだけの面白さを持っている。そこまでで留まってしまう読み方はいとうさんの本意ではないだろうけど、仮にそこまでで留まっても本編で綴られている考察の根拠の糸口がつかめればより深い世界が広がっているだろうことを容易に推察できるだけの情報量はあるし、糸口がつかめれば実際にその深い世界に踏み入ることもできる。そもそもコミカルさに目を惹かれる。それだけで十分に楽しめるだけのものがある。この懐の広さに個人的に惹かれた。でりしゃす。


ところで詩中で具体名が出てくるといつも気になるんだけど“野村さん”ってだれ?みたいな(笑。

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