幻のファンタアップルを追え!(前編)

9:00 あるきっかけ 「ファンタアップルってあったじゃろう」
シャカイ隊員が何気なくいった言葉に隊長とサラセの行動が思わず停止した。卓越した爽快感を提供することで、誰の心にも等しく刻まれる清涼飲料水ファンタ…その中でも飛び抜けた美味を誇るとされるファンタアップル。だが、気がつけばファンタと言えばオレンジとグレープというのが、衆目の一致する結果であった。ファンタアップルはどこへ消えたのだろう?当然ながら昔から慣れ親しんだ味に対し慕情の念がフツフツとわき上がってくる。
シャカイ「どんな味じゃったかのう」
サラセ「アップルいうからにはリンゴの味じゃねんか」
隊長「なんか梅酒みたいな味じゃねかったか?」
シャカイ「おおそうじゃ、梅じゃ梅じゃ」
サラセ「梅の味じゃった、梅の味じゃった」

なら何故アップルという名前で発売する必要があったのか、梅と命名すればよいではないかという疑問は一切抱かず、隊員達はアップルに対する思念を強めていくのであった。梅酒味であることを切に信じて。
隊長「ようし、ファンタアップルの探索じゃ!」
9:30 最終打合 しかし我々は大きな難問に気付いていた。
「今、アップルってどこに売っているんなら?」
とりあえず、我々は地元の主要卸場を、しらみつぶしに当たることにした。と、いっても広大な土地である。全てのポイントをチェックするなど到底不可能なこと、そこで我々はいくつかのターゲットを絞る作戦にでた。
シャカイ「以上、ABCDの四つのチェエクポイントが妥当と思われます」
隊長「うむ、それでいこう」
10:00 出発 果たして、いずこにあるともしれぬファンタアップルの散策に、我々はついに出発することになった。(ジャーン)
移動手段としては自転車である。自転車といっても決して侮ってはいかん。小回りがきくうえに、自動車では到底通過がかなわぬ悪路や狭路さえも難なくこなし、その上燃料が全く不要。資金に限りのある我々にはこの上ない選択である。全員一致で自転車を採用したのは言うまでもない。だが最大の理由は別にあった!
我々は高校生、自動車を運転できる者は誰ひとりとして存在しなかったのである。(ジャーン)
10:30 駄菓子屋に注目せよ! まずAポイントに向かっていく。だが我々はいきなり旅路の異変に気付いた。
シャカイ「隊長、見て下さい!」
隊長「むう!」

そこには、色あせた緑色のシートを用いて、粗末に軒先をつくっている不気味な店が佇んでいた。
サラセ「ここはなんでしょう」
隊長「これは駄菓子屋だ!」
サラセ「おお、そういえば!」

近年スーパーの進出により、こういった独特の雰囲気を醸し出す駄菓子屋なるものを目にする機会が激減してしまった。サラセ隊員の疑問と驚きも無理はない。
10:30 駄菓子屋とは?


知らない人のために補足を付け加えておこう。駄菓子屋とは、文字通り無駄な菓子を売る店である。栄養バランスや見た目などはあまり考慮に加えず、安さと量で勝負するような、典型的な庶民の店であった。何故か金物や洗剤なども売っている店も多く、見ようによっては昨今のローソン、ファミマなどコンビニの走りといっていいかもしれない。
だがこれら近代的なコンビニとは対照的な性質も多々持ち合わせている。いくつか挙げてみよう

●店員…コンビニのように茶髪、赤髪にした格好いいお兄さまお姉さまは存在しない。腰がひんまがり、歩くのもままならず、普段着なのかネマキなのか判断にてこずるような出で立ちの高齢な店員がただ独りいるだけである。そして、彼らと接して最も困惑するのは、お金の勘定にやたらと時を要するということである!(ジャーン)

●店内の雰囲気…コンビニには、何かと賑やかで明るいイメージを来客になすりつけようとしているキライがある。夜でも必要以上の照明をコウコウとたき、中では気も狂わんばかりの音量でミュージックをかき鳴らし、店内に潜入しようものなら「いらっしゃいませ!」出ていこうものなら「ありがとうございました!」…まるで威勢のいい寿司屋である。だが!駄菓子屋はそんなミテクレの華やかさには一切頼りはしない。入るそうそう、昼間なのに自分の家より薄暗く、天井には便所に吊していたかのような裸電球が一つ、当然ついていない、ほのかにカビの香りが漂ってきて、全くの無音が客をもてなす。聞こえてくるのは、近隣道路の車の音のみ、やがてザラザラと音がしたかと思うと、おぼつかない足取りで店員が姿を現す、ザラザラ音は店員のスリッパかサンダルのもの。だが彼(彼女)は一切の口を開かない、表情一つかえず客を暖かく見守るのみである。商品をきめかねている客とハタと視線があい、なんともいえない和やかな雰囲気に店内は包まれる。やがて奥のほうから「おじいちゃん!」と店員を呼ぶ声がして、店員は客をおきざりに奥の方へと去っていく。客はそのまま、これまた何とも言えないスガスガしい気分で店を後にする。

●商品…先述した無駄なお菓子というほどに、得体のしれない商品が客の到来を今か今かと待ちわびている。品種も様々で、ジュースやラムネ、コーラもあるしポテチもある、ヨーグルトもあればグミもある。だがどういうワケかパンとかコーヒーとかカップラーメンなどのスタンダードな商品は、皆無といわぬまでもその量はわずかであり、置き場所も隅の方、手入れもされずに誇りをかぶっている例も少なくない。随分とゾンザイな扱われかたで、激しいときにはプラモデルと人形の間に設置されている場合もあった。今日のコンビニの商品配置学に対して真っ向から挑む姿勢が素晴らしい。商品そのものもただ者ではない。同じジュースでも、何故かビニルチューブに封入され、色はというとトパーズの結晶かと言いたくなるような紫色であったり、ルビーと間違えそうな透き通った美しい深紅であったり。栄養学に、またしても真っ向から挑む姿勢も評価したい

10:35 潜入開始 隊長「こういう所ほど、意外と眠っていたりするもんじゃ」
シャカイ「なるほど」

こうして我々は名もなき駄菓子屋に潜入することにした。
隊長が先陣をきって、その堅く閉ざされた扉にてをかける。隊員達の緊張感がたかまる。だが次の瞬間、我々は早速の出鼻をくじかれたような、挫折感を味わうことになった。
隊長「扉がかてえ!」(ジャーン)
駄菓子屋は、得てして長大な歴史を背負っていることが多い。扉の立て付けがわるくなっていることも珍しくはない。しかしそれは、我々の今後の旅の困難さを象徴しているかのようだった。まるで駄菓子屋が、いやファンタアップルさえもが、我々の追求を頑として拒んでいるかのようであった。
シャカイ「まかせ!」
シャカイ隊員が扉に手をかける。難波隊員、田文隊員が抜けた今、怪力をほこるシャカイ隊員に任せるのが懸命な策というものであろう。
シャカイ「ムン」
バキバキという音と共に扉は横に不自然に滑る。
シャカイ「隊長、どうぞ」
10:40 店内 あんな不自然な音をたてたにもかかわらず、店内は静寂に包まれていた。無論、店員の姿も見当たらない。不気味なほど静まり返っている。そう、モロに駄菓子屋のセオリー通りなのであった。
隊長「早速、詮索開始」
サラセ「隊長」
隊長「なんだね」
サラセ「暗くてよくわかりません」
シャカイ「なんかゴチャゴチャしてます」
サラセ「店員に聞いた方がいいのでは?」

隊員達が、口々に弱音をはきだす。
隊長「馬鹿者!弱音をはくでない」
隊長の一括がとんだそのときである。今までその姿を謎のベールに包ませたまま、一切の存在を感じさせなかった店員が、ついにその正体を露わにするのであった(ジャーン)
10:42 交渉開始 店員「いらっしゃい!」
店員が口を開いた。セオリーに反して快活な表情で近づいてくる。老婆である。腰はまがって足取りもおぼつかないが、表情は明るい。
店員「何がいるん?」
店員はにこやかな笑みを浮かべている。何か独特な威圧感を放つ駄菓子屋セオリーとはことなっている。ここまでくれば、隊員達の考えることは一つである。
〜質問しやすいんじゃないか?〜
早速果敢に質問攻撃を加えた隊長
隊長「ファンタアップルありますか?」
店員「あ?」
隊長「ファンタありますか?」
店員「そこあるよ」

店員は冷蔵庫を指さす。客が外部から視認出来るようになっている例のタイプである。しかし、思った通りオレンジとグレープのみであり、アップルの姿はなかった。
隊長「ああ、アップルってねーん?」
店員「アップル?」
隊長「アップル」
店員「アップル探しょん?」

何か情報を握っていそうな反応である。隊員達の期待は一気に膨らむ。
店員「ねー!」(ジャーン)
10:45 伏兵出現 見事に肩すかしをくらった我々。目的のアップルがなかった為、隊員達の心は既に次の場所に移ろうとしていた。しかしここは駄菓子屋。店員独特の威圧的な眼光が、来客を実に慣用的にしばりつけて放さない例は数知れない。幸いなことに、この店員は快活な様子。この情況からの脱出は比較的容易に思えた。その時である。奥の方から別の不気味な声がした!
声「なに探しょん?」
何と奥から第二の店員、やはり老婆、が出現!(ジャーン)思わぬ伏兵の出現である。我々は一気に緊張の度合いが増えることを余儀なくされた。
店員1「ああ、ファンタアップルじゃて」
店員2「アップル?」
店員1「あんた、しっとん」
店員2「しらんなあ」

いかん、二人で会話をはじめた。どちらも快活な表情を浮かべているが、我々のコトを気遣うようにみせて、間接的な攻撃に転じているのは火を見るより明らかである。
何かを買わねばどんな目で見られるかわからぬ。
隊員達に緊張が高まる。仕方なく店員達の無言の要求を受け入れる決意をかためる。
10:50 無言の要求

店員達の要求に従うべく、我々は店内に目をやる。煩雑極まりない物品が、我々に執拗にアピールをしかける。せめて何かを見いださねば…
サラセ「隊長、みてください」
サラセが叫ぶ。隊長が目をやると、ウサギとリスが満面の笑みをたてえている。
サラセ「クッピーラムネです!」(ジャーン)
クッピーラムネ…袋に入ったラムネ菓子で、なんと10円という破格の値段が特徴的。中には白はもちろん赤や黄色、紫といったトリドリのラムネが入っている。駄菓子の代表格であるにもかかわらず、近年我々の目から離れてしまっていた。
隊長「これください」
店長1「ありがとう」

和やかな雰囲気に包まれる店内。我々も気持ちよく店を後に出きると安堵の息を漏らそうとしたそのときである
店員2「ファンタアップルはねーけど、他のモンならなんでもあるよ」
もう一人の店員が無言の圧力をしかけてきた!(ジャーン)

品揃えを説明するのと同時に、更なる購入を無言のウチ要求してくる。隊員達の額に焦燥の汗が滲む。

10:55 更なる要求 シャカイ「隊長、これをみてください」
シャカイ隊員がつぶやく。黒色のネコが我々に手をさしのべてきた。
シャカイ「フィリックスガムです!」(ジャーン)
フィリックスガム…10円で手に入る、小型桃色のガム。方形をしており、味はストロベリーといってはばからない。が、このガムにはとてつもない特典が秘められている。なんと内側の包み紙にアタリと書いてあれば、無料でもう一つ進呈されてるものである!
隊長「これください」
店員1「ありがとう」

和やかな雰囲気に包まれる店内。我々も気持ちよく店を後に出きると安堵の息を漏らそうとしたそのときである
店員2「他にもまだイロイロあるよ!」
もう一人の店員が更なる無言の圧力をしかけてきた!(ジャーン)
我々は無視して去った。
11:00 進路を南へとれ 名も無き駄菓子屋を後にした我々の次の訪問地は、南にあるBエリアである。我々は進路を南にとった。このBエリアは、この地区最大のショップ存在する、児島一の繁華街。期待もイヤがおうに高まる。我々の足取りは軽い。
だがその時!
11:15 冨士屋を探れ! サラセ「隊長、あれを見て下さい」
サラセが叫ぶ。そこには、老舗の酒屋店「冨士屋」が佇んでいた。
隊長「しかしここは酒屋ではないか」
サラセ「心配は無用です」

この冨士屋、酒屋といっても酒類だけを扱っているのではない。アルコールを含まないジュースや清涼飲料水も幅広く扱っている。さすがは老舗だけのことはある。
隊長「うーむ、それはわかった。だがのう」
隊長の心配も無理からぬことであった。この冨士屋には更なる秘密があったのである。
11:16 冨士屋の秘密

隊長「ここは、マモルの実家じゃろうが!」(ジャーン)


マモル…前回、謎の館編にて冒頭にも登場した。風体はサルのようであだ名はそのまんま「サル」。が、この男の特技はこんなものではなかった。彼は「家出」を得意としていた!それも小学校の時からである。隊員やその他友人の所に出没しては「家出中だ、ご飯をくれ」と、一飯をほおばっていく。原因をきくと「風呂から上がって家出した」と強者この上ない。近年、学校にしばらく姿を見せないと思っていたら、「マモル自殺説」がまことしやかに囁かれるようになった。家出中に飯に困って海中に入水自殺を敢行したというのだ。恐ろしいのは、大半がそれを信じて疑わなかったことである。ふた月ぶりに登校した彼は「皆ワシをみて、オメー死んだんじゃねかったんか言う!」と妙にご立腹であった。仕方がないといえば仕方がない。
そんなマモルの実家の経営している店である。店員も一筋縄でいかないであろうことは、容易に感じてとれる。

11:17 予想された展開 半ばうなだれ気味に冨士屋をみてまわる我々。店内には無数の酒類が我々をみつめている。しかし我々には無用の長物。ファンタアップルを探すべく店内を散策しているその時、
隊長「…」
隊長の動きがピタととまった。
シャカイ「どうしました、隊長」
隊長「なんでもない」
シャカイ「様子がへんです、隊長」
隊長「大丈夫だ、きにするな」
シャカイ「まさか!隊長!!」
隊長「なんでもないといっているはずだ!」
シャカイ「ビールに目を奪われているんですか
(ジャーン)!?
隊長「馬鹿者!声がでかいわ!」

忘れていた。隊長の家は無類のビール好き一家である。元旦は言うに及ばず、節分では体内にいる鬼を追い払うといっては飲み、春先からは阪神をテレビで応援する際のよき友として飲み、秋には食欲を増進させるためだという名目で飲み、冬には一年を締めくくる儀式として飲んでいる。要は年から年中ビールにつかっているのである。しかし我々は高校生、「私はビールを常飲しています」などとおくびにも一般社会に悟られるわけにはいかない。
店員「アンタ、ビールすきなん?(ジャーン)
いとも簡単に隊長の真意をみぬくとは、さすがに強者「マモル」の一族である。しかし店員は更なる追い打ちをかけてきた!
店員「よっけ、あるよ!(バーン!)
我々を高校生としっておきながら、にこやかにビールを勧めてきた。
シャカイ「いや、ワエらビールはいらん」
シャカイが勇気有る交渉の決裂を敢行した。その影で少しだけ隊長の表情が曇ったが、我々は敢えて見ぬ振りをした。
店員「何がほしいん?」
店員はあくまでも挑んでくる。一度掴んだ客をそうそう簡単にはなすわけにはいかない、執念にも似た気迫が我々を押しつける。
サラセ「ファンタアップルありませんか?」
そうだ、ここでまけてはいけない。隊長の心がとりみだれている今、隊員がしっかりサポートしなければ、今回の難題を制覇することなど難しい。
店員「ファンタアップル?」
サラセ「そうです」
店員「なんかしらんけどジュースならなんでもその
の中にあるよ」
シャカイ「でもさっきみたらねかったよ」
店員「じゃあ、ねーんじゃ
(ジャーン)
我々の目論見は脆くも崩れ去った。しかし隊員の表情にはとくに無念の色は見て取れない。それはこの店に入ろうと決意した時から、そしてそこが「マモル」の実家であることが判明している時から、十二分に予想されいたことである為である!
店員「残念じゃったなあ」
店員の余りに呑気な対応が、我々の脱力感を増長させる。だが、この直後、全く予想だにしなかったことが起こってしまった(ドーン)
11:25 強者現る! 「おばちゃあん、ワエいくで」
奥の方から聞き覚えのある声がした、声の方角にめをやると…なんとそこに「マモル」が姿を現したのである!(ジャーン,音量最大)
我々は一気に恐怖の戦慄のどん底へたたき落とされた。呼吸が荒れ、目が血走り、体のそこかしこから不気味な汗の感触が産声をあげた。隊長などは、つい先程までのビールに気をとられる気のいい高校生とは思えない、まるで蛇に睨まれた蛙のごとく、マモルの方を凝視したまま、直立不動の姿勢である。しかしこの情況を打開するためには敢えてコブラをも喰い殺すとまでいわれるマングースの精神で取り組まなければならない。この強者「マモル」を眼前に、果たしてそれを上回る三匹のマングースになれるかどうか、明確な答えも指示も方法も持ち合わせない我々であった…。幾ばくかの刻が流れていく、もう精神力の限界も近いことを感じ始めたそのとき、ついにマモルの口が開いた!
マモル「なにしよんな、オメーら」
隊長「ファンタアップル、探しょんじゃ」
マモル「あほか、高校生にもなんて、変なことばあして」

痛い箇所をつく。家出で鍛えた感性が、まるで「我々のこの旅は成功をみることはない」と予言しているかのようであった。
マモル「ま、ええわ。今日は忙しいんじゃ、ワエいくで。岡山までいくんじゃ、本買いにいくんじゃ、紀伊国屋までじゃけん、夕方にならんとかえれんのじゃ」
こちらが訊ねてもいない情報を次から次へとマモルは提供しはじめた、だが今回の旅の有力な手がかりになりそうな物は皆無であった。そして言いたいことを一方的に言い放つと、マモルは何処ともなく去っていった。我々は一挙に全身の力が抜けていくのを実感した。一つには極度の緊張状態から解放されたためであるが、片方であまりにもマモルのもたらす情報が、必死になっている我々の士気を萎えさせてしまったからである。
11:29 冨士屋を離脱 かくして我々は、予想外の緊張と恐怖を強いられた割には、何も得る物がなかったこの冨士屋を後にすることにした。そして足をすすめ始めた瞬間
店員「残念じゃったなあ」
またしても店員の余りに呑気な声が、我々の脱力感を後押しする。渾身の力をふりしぼり、冨士屋を離脱した。
11:50 ニチイに到着 我々は児島随一の繁華街にして、そのシンボル、さらには探索ポイントの最大の目玉「Bポイント」であるニチイ児島店に到着した。
このころはまだ天満屋ハピータウンは存在しなかった。またマイカルサティと改名するまえである。
11:55 深刻な提案 いよいよファンタアップルの神髄に迫ることができるかと、意気も揚々にニチイに潜入を開始しようとした瞬間、サラセ隊員が叫んだ!
サラセ「まってください」
隊員達の歩がとまる。
サラセ「腹が減りました(バーン)
実に意外だが同時に実に的を得ている意見である。こういうのを「言い得て妙」とでも表現すればいいのだろうか。古びた言い回しなどはともかく空腹というのは非常に深刻な事態である。今後の探険活動にも支障をきたしかねない。
隊長「仕方ない、昼食にしよう」
隊員達から歓喜の声があがる。無理もない、果ての見えぬこの旅にでてからもう随分と時が経つ。駄菓子屋の無言の重圧光線や、マモルの強襲、そしてやる気のないフォロー…今回の旅の行程の1/4程で、すでにこれだけの激戦をかいくぐってきてしまった。このあといかなるコトが待ち受けているのかと思うと、先行きの不安さや焦燥が常に隊員達を重く圧迫するだろう。そんな時にわずかながら、そして最大の支えとなるものが「食事」である。それまでの疲労がいくらかは軽減し、これからの不安もいくらかは和らぐ。旅と食事はきっても切り離せぬ関係なのである。
12:00 メニューを決定せよ

幸いなことにここは最大のデパート「ニチイ」である。なかにはテナントたる食事店舗が乱立する。食材には事欠かない。そう、食材には…。
隊長「何、くう?」
サラセ「ラーメンがいいです」
シャカイ「私はハンバーグかいいな」
隊長「そうか、わたしはスパゲッティーがいいのだが」

見事に意見が分かれてしまった。こんなとき、普通は一番にいったメニューに他は従うのだろうが、何故か誰も譲ろうとしない。それだけ探険と食事は深く強い結びつきなのである。綿密な会議を行った結果、何故かその場は「うどん」を食べるということで意見が一致した。早速うどん屋の場所にいく。


児島は岡山県の南端にある小さな町である。しかしながら、以前より児島坂出間高速フェリー(通称児坂フェリー)に代表されるように、香川県…それも高松や坂出など讃岐地方との交流が活発な場所でもあった。そのせいか、児島にてうどんといえば「讃岐うどん」が当たり前であり、本州内陸地の一般的な「うどん」とは一線を画した「うどん考」が児島の人間には根付いている。我々にとって「うどん」とは「讃岐うどん」のことをいい、これは本州にいながらも幸運であったことの一つであると自覚している。
よりどりみどりの「うどん」達が我々の到来を今や遅しと待ちわびていたかのごとく、陳列ケースの中に座して我々をみつめていた。隊員の気持ちはあるたった一言に集約されていた…「うまそうじゃ」
早速店内に入ろうとした瞬間、またしても新たな困難が我々を苦しめに現れた!

12:05 更なる困難 シャカイ「やべえ!ここ、高けえで!(バーーン)
みれば一杯が600円もする。我々高校生に600円という値段は途方もない物であるということを、ここの店主はしっているのであろうか?それとも、ニチイというかぎりなく庶民に開かれた空間を占領してまで店を出していると言うのに、庶民向けに商売をするきはサラサラないという意志の表れなのであろうか?
隊長「みんな、いくら持っている?」
シャカイ「わえ、1000円」
サラセ「ワシ、200円」
隊長「私は300円だ」
シャカイ「だめです隊長、三人で「スウドン」もくえません!」

三人で二杯のうどんを頼むという手も考えたが、周りの目が気になること、それにファンタアップルを買う資金も考慮したら、それは無謀な行為だということは幼児でもわかる。
隊長「なにか、別な手段を考え出さなければ!」
その時である、シャカイ隊員が叫んだ!
12:10 ノボリの力

シャカイ「あれを見て下さい」
シャカイ隊員の指さした先には、大きなノボリが掲げられていた。

おいしいパンダ焼き…100円…かわいくておいしいよ

まさに救世主であった。値段も無論あるだろうが、ノボリの殺し文句に我々は完全に「殺されて」しまったのである。
サラセ「この『おいしい』パンダ焼きという部分に実に味わいがある」
シャカイ「なんかいさぎよさを感じるな」
隊長「わたしは『かわいくておいしいよ』の部分に、哀愁をそそられる」

ノボリは一瞬にして屈強な高校生三人のハートを捕らえてしまった。恐るべしノボリ。

12:15 パンダ焼き パンダ焼きとは、一般的に言う「今川焼き」、児島ローカルでいえば「大判焼き」のスポンジ(?)部分をパンダの形になぞらえて作られた物である。無論中にはあつあつの小倉アンコがはいっている。ノボリのいう通り、みてくれは非常に愛くるしい。百円という安さだが、甘い物は腹にたまりやすいので、当座のつなぎとしては十分であろう。
隊長「では、遠慮なくいただこう」
ガヴリ、グニュ…音なき音がして、三体のパンダの、手が…足が…顔半分がもげた。中からドス黒いアンコが顔を覗かせる。
サラセ「こうなってしまうと、あんまりかわいくねえなあ」
隊長「むう、パンダが下手に笑みを浮かべているだけに、痛々しい」

そのときである!食事中の我々に全く予想だにしなかった事態が生じた(バーン!!)
12:20 チャップ来襲!

チャップである!(ドーン)
●チャップ
…本名は石川といい、隊員達そして先述の「マモル」と同学年のこれまた強者である。両眼球の焦点が今ひとつ定まっていないが愛くるしい風体と歩き方がリンクして当初世界的に有名俳優「チャールズ・チャップリン」からちなんで「チャップリン」とあだ名されていた。しかし「チャップリン」ではいちいち長すぎるためか「チャップ」と省略形でよばれるようになっていった。

余談であるが、この頃のニックネームは当初は何にちなんでつけられたかわかりやすかったのに、周囲の者が段々と省略形を多用かするために、最後にはなぜこう呼ばれているのか第三者には全然想像すら出来ない事態に陥ることが多かった。
例)ある人物は、その苗字と雰囲気から「カンロ飴」とあだ名されていたが、これがいつしか「カンロ」と略されしまいには「カー」とかいわれていた。初めての人間にしてみれば「カー、カー」」と呼ばれている由来など思いもつきはしないだろう。他にも「ミャさん」とか「メメメっつぁん」とか「キャル」とか「コペン」とか、由来が第三者には想像だにできない人物がおおくあだ名で呼ばれていた。しかしこんなコトは、どこの世界にもままあることなので、特に気にする必要はない。

そしてこの「チャップ」もまたそんな一人であった。ちなみに学校中から「チャップ」の名前を頂いているのも彼ならではである。彼が三年のとき同期の三年生からは当然「チャップ」、しかし下の二年生からは敬意を含めて「チャップ先輩」、最下級の一年生からは冠に「オイ」という呼びかけ言葉が付随して「オイ、チャップ」…という具合に学校中から共通の意識で接されていた。が、更に彼には特徴があった。非常に短気なのである。故にトラブルがたえなかった。そしてまたケンカに際しての手段も非常に特徴的であった。決まった言葉のみを繰り返し発するのである。「ウッセイ、アホ!」「なんなあ、アホ!」この二言のみが彼の武器であった。なんと果敢なコトであろう、隊員は密かに彼「チャップ」の勇気に敬意を抱きさえするようになっていた。ただし、一度も探険隊員としてスカウトを試みたことはない。ここが現実と理想の難しいところといえよう。彼のケンカを再現してみるのは非常に簡単である。
「●×@、%$$(罵倒する言葉)」「ウッセイ、アホ!」「##”@=〜!’&&%■!!(別な言葉)」「なんなあ、アホ!」「*+*¥¥!”!!(更に別な言葉)」「ウッセイ、アホ!」…以下繰り返し
シャカイ「チャップだ、チャップです隊長!」
隊長はチャップを確認するとすかさずこういった。
隊長「いねえ!」
サラセ「いねえ!」

*いね=帰れ
我らのエールに気付くとチャップはすかさず例の言葉をはく
チャップ「ウッセイ、アホ!」
そしてチャップはいずこともなく去っていった。

12:30 期待に震えよ! 辛うじて食料も摂り、難敵チャップを撃退した我々は、本来の目的を遂行すべく行動を再会した。ニチイの誇る大規模飲料水売場から、目的のファンタアップルを探すべく、一階食料品売場に急行した!
12:35 恐怖の誘惑、その一 目標の飲料水売場が眼前に広がったとき、隊員の胸は期待で膨らまずにはいられなかった。隊長もしかりである。子供の頃のあの爽快感と、梅ともリンゴともつかぬ微妙なテイストが、再び味わえるかもしれないかと思うと、これまでの苦労が吹き飛ぶようであった。だが、隊長が隊員達と喜びと期待を分かち合おうと、彼らの方へ目をやった瞬間、意外なことに気付いた。
隊長「あれ、あいつらどこいったんじゃ?」
隊長が目を配ると、隊員二人は売場の入り口付近のところで何故か歩みを止めていた。トラブル発生か!隊長の脳裏に悪い予感が走った。急いで二人のそばに近づくと…二人は試食コーナーのところで、焼き鳥をほおばっていた!(バーン)
隊長「なんしょんな、おめーら!」

うなだれ気味に隊長のゲキがとぶ。
シャカイ「隊長、なかなかうまいです!」
サラセ「一つどうですか?」

すると突然、隊員達に併せるかのように、おばちゃんが顔をのぞかせて
おばちゃん「おいしいよ!」
隊長は半信半疑で焼き鳥を一つ口に頬張らせた。む!
隊長「こりゃ、うめー!」
もう一つといきたいところだが、ヒンシュクかいそうなのでやめた。
12:40 最大の探索! やっとの思いで、飲料水売場に到着した。
隊長「あまりに規模が大きい!全てはまわりきれんぞ!」
シャカイ「手分けをしましょう!」
サラセ「三つに分かれればあとはなんとか!」

隊員達はその場から急いで三方向に散り、各々探索を開始した。あまりにも多くの飲料水が陳列されている。ダンボール箱に入っているものをいれると、気が遠くなりそうな量である。更に箱の中身は見えないと来ている。隊員達は額に汗を滲ませながら、必死に探索している。店員に聞き、客にきき、ついにはチーフ店員にまで捜査の範囲を広げていった。しかしなかなかアップルの姿を垣間見ることができない。三人の表情に、焦りの表情がみえはじめた。三人はこの広大な売場を隅から隅まで探索し、そしてとうとうアップルの発見にまでは至らなかったのである。(ジャーン!)
13:30 絶望と希望と 隊員達の表情は重かった。あれだけ期待と勝利の確信に胸を膨らませたにも関わらず、アップルを発見できなかったのである、無理はない。疲労と無念にただ顔をゆがませることのみしか、彼らには許されなかった。
隊長「みんな、気を落とすな!何も大規模市場だけがターゲットではない!」
サラセ「しかし隊長!」
隊長「いいか、まだ予定の行程の半分しかおわっていない、CポイントとDポイントがまだ残っている!」
シャカイ「ですが!」
隊長「確かに、これだけの売り場面積をほこるニチイになかった。有名店舗をあたるのは、今後徒労に終わるだけであろう。だからこそ残りの二ポイントには、独自の観点から攻めてみることにしてあるのだ!」

隊長の力強い言葉と計画を耳にして、にわかに隊員達は憂苦づけられていった。
サラセ「隊長、独自の切り口というのは?」
隊長「それはこれからわかることだ。」
13:40 恐怖の誘惑、その二 隊長の激励の元、満身創痍の寸前にまで陥りながらも、隊員は残りのポイントへの捜索続行を決意した。
隊長「その前に少しやすもう」
シャカイ「しかし隊長、我々は先ほどパンダ焼きを求めてしまいました、最早予算的に余裕がありません!」
隊長「むう!」

捜索を続行するのはたやすいことである。しかし、この疲れ切った体をひきづって移動をしたところで、大したことはできあいであろうことなど、火を見るより明らかである。隊長は考え込んでしまった。と、そのとき
サラセ「一つ提案があります」
サラセの提案は以下のようである。このニチイには二階に大規模書店を抱えている。ここで肉体的な休憩をとるとともに、ファンタアップルの手がかりを得ようと言うのであった。まさに一石二鳥を狙っていると言えよう。
隊長「二階に進路をとれ!」
我々は二階に移動をした。そこには、目がまわんばかりに高く積み上がられた本棚が我々を出迎える。しかし更なる疑問が生じてきた。
隊長「ファンタアップルって、なんの本にのっとんなら?」
悩むやいなやサラセの声がする
サラセ「おい週刊ジャンプの新刊でとるで!
あろうことか、そろこそが最大の罠であった!その言葉に我々は任務を忘れてしまい読みふけってしまったのであった!(ジャーン)
隊長「いかん!」

我に返ったのは、それからなんと二時間以上という時が流れてのコトであった。(ババーン!)
15:10 夕日に向かって

外に出ると、もはや秋も深まってきたせいであろうか、随分と空が褐色に染まっていた。
シャカイ「隊長、どうします?」
サラセ「捜索をつづけますか?」
隊長「…」

隊長はしばし、無言で考え込んでいた。きっところからの探索プランを冷静に把握しているのにちがいない。そして静かに目を開いて…
隊長「寒うなってきたから、今日はやめじゃ。続きはまた来週!」

かくして捜索の旅は、次回にもちこされることになった!次回こそは、幻のファンタアップルに、未知と戦慄と驚嘆にあふれた幻の味に遭遇できるのであろうか!(エンディングテーマ)

PART2へ続く