想い出の欽ちゃん
第五回、早朝作業を敢行せよ!
史上最大の規模と決意をもって臨むことになった「達人」、筆者もいつにない熱いなにかをかんじとる。しかしここに大きな障害がまちうけていた!
あれからふた月、隊員からの連絡がプッツリ途絶えてしまったのである。あれほどまでリベンジに燃えていた隊員に一体何がおこったのか、隊員の身の上に重大な何かがふりかかったのか、安否が気遣われる。前回は一月一日の本選(これは日テレ生放送)に対して十一月の予選、そして今回は六月本選に対する四月の予選、そして今はすでに三月も中旬を迎えようとしていた。間に合うのか!?筆者の額に焦燥の汗がにじみはじめる。あくまで冷静に情況をみまもるつもりであった筆者はついに腰をあげる。隊員の一人にコンタクトをとることにした。
「もしもし」
「おう君か」
「どうした、もうあと一月をきったぞ」
「むう!」
反応は意外なものであった。聞けば、せねばせねばという焦りは常に隊員の心を蝕んでやまないらしい、が、そのキッカケがみつからず今日に至っているというのだ。筆者は素晴らしい決意に声も出なかった。しかし、やはりはその焦りたるや相当なものらしく、この電話を機に本格始動を始めることにしたという。
「しかしのう」
だが筆者は冷静な意見を敢えてのべた。
「あと一月足らずじゃろう、練習やりょんか?」
「むう!」
うなり声から芳しくない情況を察して、ますます声が出ない。
「練習はまかせるけど、セットはどうするんな、大きいヤツつくるんじゃろ」
「そのつもりじゃ」
「時間あるかのう」
「一日でなんとかならんか」
「むう!」
今度はこっちがうなり声をあげねばならなかった。規模や装飾を考えれば、到底一日でしあがる代物ではない。
「一日か」
「できるじゃろ」
「朝、相当早くからせんとのう」
「朝五時からはじめんか」
「でも、起きれまあが」
「まかせ、迎えに行くからのう」
冗談を言っている場合ではない。自慢ではないが隊員は時間には非常に鈍感である。加えてモノグサこのうえない、朝五時などという時間に意識があることなど土台疑わしい。
そして作業当日朝、筆者は自室で寝ていた。自室と彼らの稽古場所はゆうに30キロは離れている、車でも片道三十分はみておかなけらばならない。どうせくるわけねえ…迎えにゆくという隊員の言葉ではあったが完全に疑っていた。
が、次の瞬間轟音とともにドアがはなばなしく開いた。
「むう」
意識をモウロウとさせながら応対にでると、なんと隊員がたっている。
「五時にいくといったじゃろう!」
得意げに語る隊員を前に筆者はさすがに彼の決意の深さを感じてしまい、稽古場に赴くことになった。が、稽古場についたも束の間、残りのメンバーがこない。
「あとの連中はなにしょんじゃろう」
「まだ寝とるらしい」
さすが、我ら!結局全員揃って作業開始したのは午前十一時であった。この六時間、実に優雅な時間であったことは言うまでもない。が、そのかいあってかセットの作成は思いの外すすみ、なかなかのモノができあがった。
「こりゃあいけるで!」
「通用するで!」
「今度こそ欽、もらったで!」
焦りの色から一転、隊員達の表情に活気の色が現れる。自らいうのもなんだが、本選出場作品においても見劣りしないセットである。アイデアは電話の主のお墨付きであるから、あとは演技に全てがかかる。
「まかせ!」
ただひたすら自信満々の答えがかえってくる。ほんの昨日まで「むう!」を連発していた人物の発言とは思えない。我々は確かな手応えを感じ取った。そして一月後の予選にむけて意気揚々である。だが、ここにきて全く予想だにしない新たな難関がふりかかるのであった!
次回、感動の最終回!!