想い出の欽ちゃん
第四回、逆襲にすべてを賭けろ!
我々の表情は険しかった…前回あんな老人のクギヌキごときに、見事にしてやられた。さらに予選には、本選のような欽のソフトなフォローはない、どこの誰とも分からぬ審査員を名乗るおっさんが刃のように冷たい言葉を武器に情け容赦なくが襲いかかってくるだけである。それに打ち勝たぬ限り我々に勝利はない、そう目標はあくまで忍者なのである

「こうなったら、とっておき「達人」でいこう」  


隊員の一人がつぶやいた
達人?とっておき?一体どんな案なのか?隊員の話はつづく

ある山小屋にいかにもという老人がいつものように鍋底にマキをくべてすごしている
鍋底に暖かい炎がゆらぎはじめる
む!
達人の声が先か、上空から手裏剣が達人に牙をむく
達人はかわし、達人の後ろにある花瓶の花の茎が吹き飛ぶ
む!
手裏剣は攻撃の手をゆるめない
鍋のふたを眼前にかかげると、次々と手裏剣がフタにささる
むむ!
達人はおもむろに自分が座す畳を勢いよくハタキ起こす
するとどこからともなく飛んできた槍が、畳に突き刺さり、辺りは静まり返る

おもしろいじゃないですか!」 


前回書類選考時に電話の向こうで我々と激闘をくりひろげた例の男はさけぶ
彼は今回、我らが名乗ってもすぐには反応をしめさなかたっが突如 


ああ切腹の!


それほど印象があったなら、なぜ採用せぬ?


「なんでもっと早くこれを出さなかったんですか?」

その言い方だとダムのアイデア通過時も望みウスということは、すでに判明していたということか?
二枚舌な男であるが、あながち反論もできぬ…隊員達は憤りを隠しつつ冷静さは失わない、さすが我ら

果たして、上場の反響で今回も予選通過を果たした我々は制作への意気込みもいつもとは全く異なっていた
まず出場人数は4人、前回の倍である。担当は以下の通り

・マキをくべられて燃えさかる鍋底の炎
・手裏剣によって無惨におられる花瓶の花の茎と
・同上の花
・達人

完璧な布陣である。隊はじまって以来の真剣勝負というにふさわしい。
さらに今回は作品全体の雰囲気作りにも重点をおいた。隊員は「器よりも中身」を信条とする者々、それをいかに大事にしているか、前回のダムをみれば自ずとわかるというものである。その隊員が今回においては大々的なセット制作を敢行するという方針にうってでた。余興も妥協も一切捨て去った、一世一代の大勝負である。それほどまでに、クギヌキじじいに遅れをとったのが屈辱的であったのか?
そして、その知らせは筆者のところにやってきた。


「セット制作に力を貸してくれ、今度こそ欽をくらわす。」

隊員の声からは何とも例えがたいオーラが感じられた、本気なのである、ならばこちらも全力を尽くさないわけにはいかなくなった。幾度となく綿密な打ち合わせが行われた。我々の眼差しは真剣そのものである。筆者は隊員達の期待に添うべく以下の提案を行った。

・従来の模造紙、発砲スチロールベースから重量感重視の木造に切り替えること
・演技上のタイミングチェックは綿密に調整すること

当然これらを充実させようとするならば制作に要する時間も労力も資金も莫大ものと化す。しかしコレは逆襲である、リベンジである、一度負かされた相手に二度敗北することは許されない。普段は穏和な隊員達も承諾せざるをえない程に、この作品への決意ははかりしれないものがあった。そしてここから、筆者を含めた隊員達の熾烈ともいえる闘いの火蓋がきっておとされることになる。だがそれがあれほどまでに過酷なものとなってしまうなど、その時誰が予想したであろうか!