想い出の欽ちゃん

第二回、演目を絞れ!

さて、欽をくらわす決意を固めた我々にとっての第一の難関は演目の選定ということである。
何せ目標はあの忍者である。
あれ以上のインパクトなくば、欽をくらわすことは難しい。連日のように論議が成された。


忍者のもつポテンシャルを見習え
忍者のもつ意義を考えろ
忍者のように華々しく散れ。


厳しい課題を突きつけられて、我々の額に汗がにじむ。隊員の一人が、すでに日本テレビに仮装大賞出場の方法について問い合わせを済ませていた。出場用の記入用紙が返送されており、住所、氏名、出場人数、そして演目と内容をかく欄が一際大きく口をあけていた。ここに忍者以上の作品を彷彿とさせる内容を書かなければ…、その念が我々に焦燥感を抱かさせる。
「やはり…忍者のあの潔さを見習って、どうだろう切腹というのは!
おお、依存なし!
内容はこうである。三人一組になり、黒い幕の前にて演じる。一人は介錯人。一人は胴体、一人は頭を受け持ち、「エイヤ」という掛け声とともに切腹を敢行、すかさず介錯人が長刀を一振りすると切腹人の首が落ち、地面で転がるというものである。当然、首役の胴体から下は、黒づくめにしておき、黒幕の前ではリアルに首がおちるように見えるという、どこからみてもスキのない完成度の高さはいうまでもない。


これならいけるで!


意気揚々と内容を書き込み、颯爽とポストに投函する隊員達。まず目指すは書類選考突破である。
数日後、一本の電話がかかってきた。隊員代表がその電話に応対。彼の話だと、我々の洋々たる前途を告げる吉報のベルがなっていると信じて疑わなかったそうである。以下、彼の体験談をほぼそのまま記す。


「S井サンですか」
「そうです、お世話になります」
「ハイハイ…ええと、切腹という内容でしたね」
「ええ、どうですか?我々としては自信があるんですが」
「内容にしてはナカナカいいと思うんですよ」
「そうですか(得意げな声)」

ここまでは思惑通り。が、次の瞬間、電話の主の声色が変わった。

「でもねえ、正月早々首がトブというのはどうかと思いませんか
「えっ?」
「まだ少し時間がありますから、別ネタをお願いします」
「そうですか…」

こうして第一回目の交渉は決裂に終わってしまった。それからというもの電話の主との激闘が始まる。ちなみに主はいつも同じ人であり、しまいには名乗るや否や「ああ、あの切腹の!」という応答がくるくらい、この切腹ネタはインパクトはあったのだろう、つくづく惜しいことをした。

●自動販売機…販売機に扮した人間が逆立ち、別な人間がやってきて「おつり」ボタンをおすと、口にふくんだコインを吐き出す

●空気入れ…一人が空気入れに扮し、ボール人間がホース先をくわえる。空気入れが上下に屈伸するたびにボールが(人間の頬が)ふくらみ、ある瞬間「フシュー」とボールはとんでいく。

●海底…青い海のなかに全身を真っ青に染めた人間、しかしワキの部分だけは白く「クラゲ」がかかれており、ワキ毛をクラゲの足にみたてて、海中を漂う。

しかし我々が英知の限りを振り絞って叩き出した案に、主は一言


これって面白いですか?

かくして我々の激闘の日々はまだ続くのであった。