想い出の欽ちゃん
第一回、欽をくらわせ!
ことの始まりは…そう、ある時隊長の家にて「仮装大賞」を見ていたとき。
「さあ、続いて●×番、忍者!」
ピロロローン
いつもの欽の掛け声と、気の抜ける効果音。しかし、次の瞬間、我々の目はブラウン管に釘づけになってしまう。
そこには、妙な大木が一本、無表情にたたずんでいた。その容姿とは…いかにも「木をかけ」と言われ、純真無垢な幼稚園児が「おう」と画用紙に向かい、なんの疑問もなくクレヨンを走らせたといえば、それ以上の言葉は必要あるまい。
〜なんだこれは?
我々の心中に疑問とある種の予感がよぎる
「だれだ!」
いかにも素人の声
シュバシュバア!
アニメからとった音が会場を響きわたる!
そして2秒ほどの沈黙(だが我々にとっては10秒以上にも感じられただろうか)、この間我々の誰一人として余計な雑念を抱くことなく画面に注視。
次の瞬間
バリ…
向かって左側の枝が不自然に折れたと思ったも束の間、大木の中心を黒服衣装の忍者が首を押さえつつ突き破る。よく見ると、右手が白く塗られている。白刃、それも形から推して鎌が首に刺さった様子を表現しているようであった。
一言、「やられた」
静かな、あまりにも静かなセリフとともに、忍者はその場に突っ伏してしまう。3秒ほどの静寂(だが我々には15秒以上にも感じられただろうか)。プッ、採点ランプが一つ入る。そう、演目は終焉をすでに迎えていたのだ。ププ…ププ…、我々は何の気持ちを抱くことも許されぬまま、その光景を見守っていた。
ヒョロロローン
10点前後で採点は終了した。忍者はその音を聞いてムクリと立ち上がる。欽は言葉に詰まった様子画面いっぱいに映る。そして戸惑いながらも忍者に接近をはかり暖かい言葉をかけた。
「残念だったねえ、またきてね」
その直後
「さあ、続いていきましょう!」
忍者は完全に黙殺されたのだ。
だが、画面にて一部始終を見守っていた我々の心の中で何かが確実に音をたてて動き始めていた。
「全員、忍者に続けい!」
そう、忍者は我々の心を完全に奪ってしまっていたのだ。いや、それよりもあの欽の表情が我々の士気をに火をつけたのである。
「欽をくらわせい!」
まってろよ欽!